その7「ハイブリッドリサーチャー」| JMAリサーチ道場
企画部 牛堂雅文
ハイブリッドリサーチャー先日、リサーチャーの勉強会(JMRX勉強会)で海外のカンファレンス「Qualitative Online 360°」の参加報告をお聞きする機会がありました。その中でキーワードとなっていたのが、「ハイブリッドリサーチャー」という耳慣れない言葉です。
「ハイブリッドリサーチャー」とは、リサーチャーがある一つの手法で調査を完結するのではなく、
「定性調査」と「定量調査」、
「オンライン調査」と「オフライン調査」
「モバイルの活用」
「伝統的リサーチ会社」と「IT系企業など他の業界」の得意分野の融合、
…といった各手法の得意分野の組み合わせにより、課題により深くアプローチしようというリサーチャー、リサーチのあり方のことを指しています。
そういう言い方をすると、「以前からリサーチャーは様々な調査手法の組み合わせを実施しており、全く目新しくない。」…といった感想を持たれるかもしれません。
「グループインタビューで得られた気づきを、定量調査で検証する」といった定番のハイブリッドはかなり以前から用いられており、「今さらハイブリッドと名乗るな」というお叱りの声もありそうです。
(そういえば、しばらく前にエスノグラフィーが流行ったときも、現場に出向く従来型の手法と同じである…と同様な議論があったように記憶しています。)
背景の考察
ただ、現在ハイブリッドリサーチャー/リサーチが叫ばれることの背景にも着目すべきかと思います。
まず、一つはWebリサーチ、MROCといったオンラインの手法、または携帯などITツールを駆使したリサーチ手法が増えるのに従い、「それぞれの手法の特性を把握し、使いこなす必要性が高まってきている」点です。
リサーチから拡張して、企業のマーケティング活動に視点を広げても同じことが言えます。ソーシャルメディアを筆頭にWeb関連の新しいコミュニケーション手段が増えたため、TV、新聞、雑誌といった既存のコミュニケーション手段も含めて特性を知り、適切に組み合わせて使っていくことが求められています。これは時代の潮流と言えそうです。
二つ目にマーケティング・リサーチ会社が大規模化/合理化して社内分業が進んだり、リサーチ会社によっては手法に特化したことにより、「特定の手法に偏った経験を持つリサーチャーが増えてしまった」点です。
これにはリサーチ会社の社内教育・キャリアパスの問題、クライアント企業との関わり方の問題(特定手法が多いクライアント企業の専任となる)、早さ・安さとともに企業の成長速度を重視した結果など、色々な要因が潜んでいそうです。
三つ目として、海外では「普通にリサーチをやってもインサイトを探れない」と言う問題意識が感じられているようで、その解決法としてハイブリッドリサーチが注目されているようです。
「インサイトとは何か?」というところも人による解釈の幅が大きいのですが、なにより課題に対し色々な手法・アプローチを組み合わせるのはマーケティング・リサーチにおいて当たり前の話です。「何を今さら…」というご感想は、長くマーケティング・リサーチに携わっている多くの方が感じられることかもしれません。
ただ、元が海外の話ですので、言葉のニュアンスが掴み切れていない恐れもあり、「何を今さら」…と速断しない方がいいのかもしれません。
ハイブリッドの事例
では、話を戻し、手法などをハイブリッドしたリサーチが活用される具体的なケースを考えていきましょう。(以降、日本での話が中心となります。)
(1)「探索的定性調査+検証的定量調査」
まずグループインタビューやエスノグラフィーなど定性調査で探索的なアプローチを行い、定量調査で得られた発見を量的に検証するという組み合わせ方が最もメジャーなのではないでしょうか。
お互いの長所が活かせるため、最も活用の機会が多い組み合わせではないかと思います。ただ、定性調査での発見を、定量調査の質問文へ落とす部分がキーとなりますので、ワーディングの妙が問われます。
(2)「HUT+MROC」
また、最近ではリアル調査のHUT(ホームユーステスト)とオンラインのMROCを組み合わせるのも相性が良いと言われており、弊社でも実施しています。
(3)「日記調査+デプス/グルイン」
日記調査と、デプスインタビューやグループインタビューの組み合わせも広く用いられており、淡々とつけて頂いた日々の記録と、そこからの深掘りで普段の生活や価値観が生き生きと見えてきます。この日記調査部分に携帯電話、PCなどの機器を使う方法も試されたことがあるのではないでしょうか。
(4)「専門家ヒアリング+消費者調査」
消費者/ユーザー以外の第三者の意見が重要になるケースでは、専門家に対するヒアリングと、消費者/購買者に対するリサーチという、調査対象に関してのハイブリッドの例も見受けられます。対象となる専門家としては、先端の研究をされている方や、流通関係者といった消費者以外のステークホルダーが挙げられます。
私自身も、「流通」と、「消費者」の両方を対象に調査を実施した例があります。
Webで口コミ情報に接しやすく、オンライン購入もできる昨今では、店頭で店員と話をしつつ購買するケースは減っているのかもしれませんが、商材によっては依然として店頭でのアドバイスが大きな影響力をもっています。
(5)「観察調査+インタビュー」
観察調査は通常のインタビュー等のリサーチではアプローチが難しいニーズ探索時に用いられますが、ただ行動観察をするだけで終わらず、観察後に行動からの考察を踏まえたインタビューをすることで理解が深まります。
昨今個人情報保護関連のハードルは上昇したものの、動画記録に関しては記録ツールがデジタル化を終え、小型化・低価格化し、利用のハードルが低下しているのは追い風と言えそうです。まだリサーチでの利用例はあまり聞きませんが、携帯電話には動画撮影機能やGPSが標準的に実装されています。
前述のように、「ハイブリッドリサーチャー」という名前を聞くはるか前から、このような組み合わせを実施されてきた方が多いと思います。一方で、MROCなど新手法、IT機器の普及により、今までにない新しい組み合わせが生まれはじめているのも事実です。
ここで5つの組み合わせ例をご紹介しましたが、新しい手法か、古い手法かというところが重要なわけではありません。そしてなによりツールである手法に踊らされる必要性はありません。
しかし、新しい手法は課題解決に適した優れた組み合わせを生む可能性も含んでいます。これらのハイブリッドの例を参考とし、課題解決のためにどういった組み合わせが有効そうなのか再度検討してみるのも意味のあることではないでしょうか。
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